自販機を置きたいだけだったのに

ラストワンマイル問題を考えさせられました。

最近、自販機について少し勉強しています。

きっかけは、昨年末にオープンしたトランクルームの2店舗目「トランクルームリネン花小金井南町店」。

店の前にスペースがあるので、「ここに自販機でも置けば、ちょっとした副収入になるんじゃないか?」くらいの、かなり軽い気持ちで考え始めました。

元々、物件平面図にトイレがなかったのに、実際にはトランクルームとしては収益にならないトイレやキッチンがあったので、店の前スペースに自販機を置かせてもらうことで少しでも補填できればと不動産契約時に了承いただいていたのです。

ところが、話は意外な方向に進みました。自販機について調べていくうちに、流通における**「ラストワンマイル」**という問題に行き着いたのです。そして、これがなかなか面白い。

今回は、その話です。

「自販機を置いてください」と言われるものだと思っていた

まずは、赤いロゴのC社に設置の相談をしてみました。私としては、「場所を提供するんだから、むしろ協賛金くらい交渉できるんじゃないか」くらいに思っていました。

実際、他で私が関係している会社でも、自販機についてはそういう感覚があったので、「自販機って、メーカー側が置きたがるもの」というイメージがあったわけです。

ところが断られました。

「え? 自販機って断ることあるの?」

これが最初の疑問でした。

そもそも自販機って、無人販売です。コンビニやスーパーのように、店舗を構えて、店員を配置して、レジを置いて……という必要がない。だったら、人件費も少なくて済むし、リスクも小さい。場所があるなら、メーカーとしては置きたいんじゃないの?

そう思ったわけです。ところが、調べてみると、どうもそんな単純な話ではありませんでした。

自販機業界はいま、かなり厳しい

ちょうど最近、自販機部門の赤字や縮小がニュースになっています。

C社は自販機の縮小。
S社は自販機部門そのものの売却。
D社は自販機の選別。

会社によって対応は違いますが、共通しているのは、自販機の売上が厳しくなっているということです。

理由の一つは価格。自販機は基本的に定価販売です。ところが、消費者の節約志向が強くなると、「同じペットボトルなら、スーパーで買ったほうが安い」となります。そして、コンビニですらスーパーとそれほど変わらない価格で買えるPB商品もあります。

なるほど。私が自販機の設置を断られたのも、そういう事情があるのかもしれない。そう思いました。しかし、ここでまた疑問が出てきます。

だったら、コンビニと同じ価格にすればいいのでは?

私が引っかかったのは、ここの部分です。自販機は無人販売です。一方、コンビニには店員がいます。店舗の家賃もあります。電気代もあります。レジもあります。在庫を置くバックヤードも必要です。

だったら、「自販機のほうがコストが安いんだから、コンビニと同じくらいの価格にできるんじゃないの?」と思ったわけです。ところが、どうもそう簡単ではない。そこで、調べていくうちに出てきたのが、「ラストワンマイル」という言葉でした。

ラストワンマイルとは何なのか

ラストワンマイルというのは、ざっくり言えば、商品やサービスを最終的な消費者まで届ける「最後の区間」のことです。

物流で考えると分かりやすい。

海外から船で大量の商品を運ぶ。港に着く。倉庫に運ぶ。工場に運ぶ。問屋に運ぶ。物流センターに集める。そして、最後に販売店や消費者のところまで届ける。

この最後の部分がラストワンマイルです。

一見すると「最後のちょっとした距離」に見えるのですが、実はここが非常に厄介です。なぜなら、大量輸送のように効率化しにくいからです。

大型トラックなら、一度に大量の商品を運べます。しかし、最後の配達は、「この家に1個」「次の家に2個」「その次の家に1個」という具合になります。しかも、それぞれ届け先が違う。人手も必要です。車両も必要です。燃料も必要です。だから、ラストワンマイルは物流の中でも非常にコストがかかる部分なのだそうです。

Amazonとヨドバシを見ると分かりやすい

この問題への対応として面白いのが、Amazonとヨドバシです。Amazonは、自社の物流倉庫を都市部の配送拠点として活用し、そこから消費者へ届ける仕組みを作っています。一方、ヨドバシは店舗そのものを在庫拠点として活用し、そこから自社配送で届ける仕組みを持っています。

つまり、「最終消費者の近くに在庫を置く」ことで、ラストワンマイルを攻略しようとしているわけです。

Uber Eatsなどのフードデリバリーも、考えてみれば同じです。料理そのものは飲食店で作る。しかし、最後に「お客さんのところまで届ける」という部分に、人間を一人配置する。これもラストワンマイルです。

そして、自販機に戻ってくる

ここで、ようやく自販機の話に戻ります。

最初、私は、「自販機=無人販売=人件費が安い=効率がいい」と思っていました。ところが、実際には違います。自販機そのものは無人でも、その裏側では人間が動いています。商品を補充する。売上金を回収する。場所によっては、空き缶やペットボトルを回収する。故障したら対応する。売れ行きが悪ければ商品を入れ替える。

つまり、「販売する瞬間だけ無人」なのです。

ここが重要でした。

コンビニは、実はかなり効率がいい

一方、コンビニは一見すると、人件費の塊に見えます。店員がいます。しかし、物流全体で見ると、かなり効率化されています。さまざまな商品を物流センターなどでまとめて配送する。店舗にはバックヤードがあり、一定量の商品を保管できる。店員はレジだけをしているわけではありません。客が少ない時間には、品出しをしたり、清掃したり、さまざまな仕事をしています。つまり、一人の店員が複数の仕事をすることで、労働力を効率よく使っている。

さらに、コンビニにはPB商品などもあります。大量生産・大量物流の仕組みに乗せることで、商品そのもののコストも下げられる。そして何より、すでに存在する物流網に商品を乗せられる。ここが大きい。

自販機は「飲料だけを運ぶ」という非効率を抱えている

それに対して自販機はどうでしょう。基本的には、「飲料を積んだトラックが、自販機を一台ずつ巡回して補充する」という仕組みです。もちろん、実際のオペレーションにはさまざまな工夫があります。しかし、構造的には、「飲料だけを持って、販売拠点を一台ずつ回る」というビジネスです。

しかも、売れたら補充しなければならない。売上金も回収しなければならない。空き容器も回収しなければならない。つまり、自販機は、「販売は無人だけど、物流はものすごく人手に依存している」わけです。これには驚きました。私が最初に考えていた、「無人だから低コスト」というイメージとは、かなり違います。むしろ、自販機というのは、ラストワンマイル問題の影響をかなり強く受けるビジネスだったのです。

自販機には3つの運営方式がある

ちなみに、自販機の運営には、大きく分けると3つのスタイルがあります。

① メーカーによるフルオペレーション

メーカー側が自販機を設置し、商品の補充や売上金の回収なども行います。オーナー側は基本的に場所を提供するだけ。今回、私が相談したのは、このタイプです。

② セミオペレーション

自販機自体はメーカーなどに任せつつ、納品された商品をオーナー側で補充するなど、一部を自分で運営する方式。

③ オーナー型

自分で自販機を購入・設置し、商品を仕入れて、自分で補充・販売する方式です。当然、自分でやれば利益率を高くできる可能性があります。ただし、その分、手間もリスクも増えます。

そこで、私のトランクルームの場合

私の場合、自販機を置こうとしているのは、自分が運営しているトランクルームです。そのため、一般的な設置場所とは少し事情が違います。まず、設置場所については、契約前に大家さんから承諾を得ています。つまり、追加の場所代はかかりません。

また、トランクルームなので、多少の商品を保管するスペースもあります。つまり、「場所代がかからない」というのは、かなり大きい。

それでも、オーナー型で自販機を購入し、商品を仕入れ、補充して……となると、手間の割にどこまで利益が出るのか。しかも、売れなければ在庫を抱えることになります。「副収入としてちょっとやってみる」というには、少々リスクがあります。

最後に八洋さんにたどり着いた

そんなわけで、C社に断られ、D社にも断られ、「さて、どうしよう?」となりました。正直、自販機しか販路のないD社に断られた時には、心が折れかけました。

メーカー型の自販機を諦めて、オーナー型にするか。それとも、自販機そのものを諦めるか。そんなところまで追い込まれました。

そこで、最後にもう一社だけ、声をかけてみることにしました。八洋さんです。実は、それまで八洋さんには声をかけていませんでした。近所にはすでに八洋さんの自販機があるので、「近すぎるから断られるんじゃないか」と思っていたからです。

また、個人的にはメーカー系の自販機と条件を比較してみたい、という気持ちもありました。一応、Webサイトを見ると設置場所を募集しています。だったら、聞くだけ聞いてみよう。断られても別に殴られるわけではありません。

ということで、最後は完全に「当たって砕けろ」精神です。

そして、八洋さんから条件が出た

結果として、八洋さんから条件を提示していただけました。つまり、設置できるということです。粘り勝ちです!条件は決して「ものすごくおいしい」というものではありません。でも、既に他社には断られている。そうなると、「四の五の言っている場合じゃない」という話になります。

もちろん、オーナー型という選択肢もあります。自販機を自分で購入して、商品を仕入れて、補充して、売上を管理する。うまくいけば利益は大きくなるかもしれません。しかし、それだけの手間とリスクを背負ってまで、自販機事業をやりたいのか。

私の場合は、あくまで本業のトランクルームに「ちょっとした副収入」を付けたいだけです。それなら、多少利益率が低くても、運営の手間とリスクを外に出せるほうがいい。そう考えました。

「無人だから儲かる」は、そんなに単純ではなかった

今回、自販機について調べてみて、一番面白かったのはここです。

最初は、自販機=無人販売=低コストだと思っていました。ところが実際には、自販機=販売部分は無人だけど、その前後の物流には大量の人手が必要だった。

そして、その背景にあるのが、ラストワンマイル問題。

商品を作るところまでは、大量輸送や物流センターなどによって徹底的に効率化できます。ところが最後の最後、「消費者のすぐ近くに商品を置く」というところで、一気に効率が悪くなる。自販機は、その「最後の最後」を一台ずつ担っているわけです。だからこそ、売上が落ちれば、補充や回収などの固定的な手間が相対的に重くなる。「売れない自販機を置いておくくらいなら、撤去したほうがいい」というメーカーの判断も、少し理解できるようになりました。

それでも、自販機はなくならない

では、自販機は衰退していくのでしょうか。私は、必ずしもそうではないと思っています。スーパーより高い。コンビニより高い。それでも、自販機で買う人はいます。

なぜなら、「今、ここで欲しい」という需要があるからです。喉が渇いた。近くに店がない。わざわざコンビニまで歩きたくない。そういう瞬間に、自販機には価値があります。

つまり、自販機は、「安く買う場所」ではなく、「必要なときに、必要な場所で、すぐ買える場所」として考えたほうが、本質に近いのかもしれません。そして、その価値を提供するためには、どうしても「最後の一マイル」を誰かが支えなければならない。

今回、自販機を置こうとしただけなのに、思わぬところから物流の構造まで考えることになりました。

商売って、調べれば調べるほど面白いですね。